色彩の扉

「金赤」ってどんな色?~インキのブロンズ現象~

「金赤」という色をご存知でしょうか。企業のコーポレートカラーなどに見られる、とても冴えた赤のもとになる色です。一般的には、プロセスカラーでマゼンタ100%とイエロー100%の掛け合わせの色が「金赤」と呼ばれています。しかし、DICカラーガイドの色を調色する原色インキにも、「金赤」と呼ばれる色があります。少し黄みがかっていて、プロセスカラーの「金赤」よりも鮮やかな赤です。金色のようでもないのに、「金赤」と呼ばれる理由をご説明しましょう。

金赤とは

 

実は、DICカラーガイドの金赤インキに使われている、色のもとになる顔料にその秘密があります。ある種の顔料を使用したインキは、印刷面をいろいろな角度から見てみると、金属の輝きに似た複雑で微妙な色が地色の上に浮かび上がって見えます。この金属的な輝きをブロンズと呼びます。ブロンズの色は、顔料の種類によって異なります。金赤インキでは、レーキレッドCという顔料が使われています。このレーキレッドCはインキとして白い紙の上に印刷すると赤い色を呈しますが、乾燥して顔料が表面に出ている状態になると、ハイライトに金色のブロンズが生じます。

ブロンズ現象が発生するメカニズムについては、あまり明確にはなっていません。ブロンズを示しているインキが塗られた膜を電子顕微鏡で調べると、表面に不規則な大きさの粒子が層を形成しており、この表面層で光が不規則に反射するためにブロンズが生ずるという説があります。その他にも、ブロンズの発生には顔料の結晶構造や屈折率が関連しているとの説もあるようですが、どれが正しい理論なのか、それともこれらの複合効果によるものなのかはっきりしていません。

「金赤」という名称は、ブロンズ現象が生み出す金色に輝く赤から名づけられたものなのです。色の名前の由来を探っていくと、そこにさまざまなエピソードが存在します。文化や人の感性から名付けられた色名もあれば、今回ご紹介したような物理現象に由来する色名もあります。私たちの知性を刺激する多岐の分野にわたる情報を、色を通して垣間見るのも面白いかもしれません。